極上御曹司は失恋OLを新妻に所望する
すぐに返事を打つ気にはならずに、そのまま携帯をちゃぶ台に置く。外では、セミがここぞとばかりに鳴き、暑さに拍車をかけていた。
もう九月も二週目だ。残暑だというのに夏の太陽はまだまだやれるとばかりに全力を発揮していた。
シャワーをすませたばかりだっていうのに、すでに浮かびそうになっている汗に、ひとりきりだけどエアコン入れちゃおうかなぁとぼんやり考えていたとき、インターホンが鳴った。
時計が指すのは十時五十分。
〝お昼前〟って言っていた割にはずいぶん早いけれど、伊月かもしれない。
濡れ髪で出るなって前に注意された気はしたものの、そのまま無視するわけにもいかずに玄関に手をかける。
そして、ガラッと引き戸を開けて……驚いた。
想像していた人じゃなかったから。
「……どちらさまでしょうか」
私と同じように驚いた顔をしている男性に聞く。
白いTシャツに紺色のジャージ姿の男性は、私より少し年上に見えた。見た目的にはさえない感じで……バラエティー番組でよく目にする毒舌芸人なら〝根暗もやし〟だとか例えそうな感じの男性だった。
細長い体に、ぼさぼさの長めの黒髪。顔色の悪さが不健康だと物語っている。
じっと見ていると、男性はわずかに顔をしかめ「あれ。ばばあは?」と……『ばばあ』と確かに言った。