極上御曹司は失恋OLを新妻に所望する


この駅には新幹線が乗り入れるため、私は帰省するたびにこの駅に降り、このビルを眺めてはいたけれど、改めて見上げてみるとすごい。

十六階建てのビルの一面がマジックミラーになっていて、街の景色を映し出している。建築関係の会社だけあって、ビル自体もなんだかオシャレで、普通の立方体ではなく円柱を縦半分に切ったような不思議な形だ。

マジックミラーは建物内から見れば窓同然なわけだし、社内はとても明るいんだろう。
こんなオフィスなら仕事も楽しいものなのかもしれない……と考えてから首を振り思い直す。

どれだけオシャレなオフィスだろうと、会社を動かしているのはひとだ。
私が勤める会社がたとえどんなオシャレオフィスだったとしても、どっちみちあの修羅場は免れなかった。

あまりに圧倒されて現実逃避しそうになった頭を切り替え、一歩踏み出したはいいけれど……今度は不安が襲ってきて足を止める。

おばあちゃんに言われるままここまで来てしまったものの、これだけ立派な会社におはぎを届けるってどうなんだろう。

そもそも、アポがないと門前払いの可能性だってある。
しかも伊月はCEOだと言っていたし、受付でお願いしたところで防犯上すんなり通してくれるとは思えない。

一応、オフィスカジュアルでは来たけれど、アポがない以上これだけの一流企業の受付を突破するのは難しそうだった。しかも私事ではまず無理だろう。

それなら、伊月に直接電話を入れて……と携帯を取り出してから、伊月の連絡先を知らないことに気付き落胆する。

< 134 / 190 >

この作品をシェア

pagetop