極上御曹司は失恋OLを新妻に所望する


「申し訳ございません。アポイントをとられていない方をお通しするわけにはいきませんので、再度、アポイントをとってから来訪していただきますよう、お願いいたします」

「……そうですよね。すみません。出直します」

私が受付をしていたとしても同じように返答する。仕方ない。

無駄足にはしたくないし、どこかで求人雑誌でも買って帰ろうかな、と考えながら建物を出る。ここで伊月とすれ違えたりしたらラッキーなんだけどな、とも思い周りをキョロキョロしてみたけれど、そんな奇跡は起きず、ひとつため息を落としながらバッグを肩にかけ直したとき。

「――あの」

後ろから呼び止められ足を止めた。

振り向くとさっきの受付の女性が私に走り寄ってくるところだった。
どうしたんだろう、と不思議に思っていると、私の目の前で立ち止まった女性は私を見て嫌悪感たっぷりのため息をついた。

「こういうこと、やめた方がいいですよ」
「……こういうこと、と言うと?」

一流企業へのアポなし訪問がマズいということだろうか。だとしたらたしかに……と思ったのだけれど、女性社員が言ったのは別のことだった。

「あなた、伊月代表につきまとって相手にされないからって会社まで来たんでしょう? 自分勝手な私用で会社まで来るとか、どれだけ迷惑かわかってないの?」

私をストーカーだと思っているらしい女性に険しい顔で言われ、戸惑う。

すぐに否定したかったけれど「いえ、そういうわけじゃ……」と話しだしたところで遮られてしまう。

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