極上御曹司は失恋OLを新妻に所望する
「あら。渡せなかったの?」
プラスチックの容器を包んだ風呂敷をそのままちゃぶ台に置くと、おばあちゃんは驚いた顔をした。
相変わらずエアコンは入っていないけれど、そこまでの暑さはない。
「うん。会えなくて。伊月の会社だからって、いつでも伊月がいるってわけじゃないのかもね」
あったことをそのまま話すわけにもいかずに誤魔化すと、おばあちゃんは残念そうに眉を寄せた。
「あらー。残念。じゃあ、つぐみ食べる? この暑さじゃそんなに日持ちもしないし」
「うん。おばあちゃんのおはぎ好きだから嬉しい。夕ご飯代わりにするから、今日は夕ご飯準備しなくていいよ。今日、これから町内会の旅行でしょ?」
いつもの広末さんと一緒に伊豆に二泊三日の旅行に出かけると言っていた。
今日は移動だけで、本格的に伊豆を楽しむのは明日からというスケジュールなのは、参加者が高齢なのを配慮してのことだろう。
「そう? じゃあ、あと適当にお野菜使ってお味噌汁作っておくから、それも食べなさいね。おはぎだけじゃバランスがよくないから」
「うん。わかった。ありがとう」
おばあちゃんと会話を交わしてから自分の部屋にあがり、バッグを床に放る。そして、エアコンもつけずにそのままベッドに倒れ込んだ。
なんだか、ものすごく惨めな気分だった。
今、こんな状態だからだろうか。
制服に身を包んだ女性を前に、堂々と胸が張れなかった。
それとも……原因は別にあるのだろうか。
伊月がどれだけの立場かを目の当たりにして、あまりに不釣り合いな自分に気付いたからだろうか。