極上御曹司は失恋OLを新妻に所望する


「……あ。求人忘れた」

雑誌なんかなくても、携帯でだって求人情報は見られる。
けれど、体から力が抜けてしまっていてそんな気分にはなれなかった。



どれだけそのままぼーっとしていたのかはわからない。
おばあちゃんの「じゃあ、出かけてくるからね」という声でハッとしてベッドから起き上がる。

「うん。気を付けて」

階段の上から顔を出し言うと、おばあちゃんは「つぐみも戸締りと火の元だけはしっかりね」と言い、玄関を出ていく。

時計を確認すると、十五時過ぎ。私が帰ってきたのは十四時半頃だったから、そこまでぼんやりしていたわけではなくてホッとしていると、さっきしまったはずの玄関が再び開く音がした。

忘れ物だろうか……と思いながらも、放ったままのバッグのなかから携帯やらタオルやらを取り出していると、足音が階段を上がってくる。

おばあちゃんとも大地とも違う足音に思わず手を止める。
いつかの大家の男の件があるだけに、少し身構えながらドアを見ていると、ノックと同時に「俺」という声が聞こえた。

知っている声に、今はあまり会いたくない気分なんだけどな……と思いながらも「どうぞ」と答えると、伊月がドアを開けた。

少し不機嫌そうな顔を眺めているとその理由を告げられる。


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