極上御曹司は失恋OLを新妻に所望する
「今、玄関先でふじえとすれ違いになって、話聞いた。なんで呼び出さなかったんだよ。ふじえに頼まれて会社まで来たんだろ?」
「呼び出してもらおうとは思ったよ。だから受付まで行ってお願いしたけど、無理だったの。っていうか、私も行ってから気付いたけど、普通にアポもないのにCEOに会いたいなんて無理だよ。思いっきり不審者だもん」
「事情話せばよかっただろ。名前言って内線繋いでくれればどうにかなったかもしれないし」
「無理だってば。受話器持ち上げてくれる前の段階で躓いてるんだから。それに、伊月目当ての女の子がしょっちゅう訪ねてくるんでしょ? 私もそのうちのひとりみたいなこと言われて、嫌な気分になったから帰ってきちゃったの」
やや強めに言うと、伊月はわからなそうに眉を寄せた。
「そんなわけないだろ」
「本当か嘘かはわからないけど、でも私はそう言われたからってだけ。……とりあえず、下行こう」
いつまでも私の部屋にふたりでいるのは、テリトリーに入り込まれたみたいで落ち着かない。
伊月に声をかけ、携帯とタオルだけ持って一階に下りる。タオルを洗濯機に入れたあと、そういえば……と思い出し、居間にいる伊月に声をかけた。
「ねぇ。一応、番号教えておいてくれない? 今日、知らなくて不便だったから」
「ああ、そういえば俺も聞いておこうと思ってたんだった」
お尻のポケットから携帯を取り出した伊月は、携帯ケースからおもむろになにかを取り出すと私に差し出した。