極上御曹司は失恋OLを新妻に所望する
もともと並んで座っていたし、伊月との距離は近かった。けれど、その距離をもっと詰められ身を引くと、追ってきた伊月の手が私の後頭部に回る。
そのまま抱き寄せられるようにキスされそうになり、ハッとして伊月の胸を押した。
突然のことに驚き、心臓がバクバクと鳴っていた。
間近で見た伊月の瞳の色だとか、近づいて初めて気づく香りだとか、ワイシャツ越しの体温だとか……そういうこと全部に、胸が異常なくらいに反応し体が震えるほどに高鳴っている。
私が拒否したからか、眉を寄せた伊月が「なに」と責めるように言うから困惑する。
それはこっちのセリフだ。
「なにって……だって、おかしいでしょ、こんなの。伊月って、なんで平気でこういうことするの? 伊月グループの御曹司で、CEOって立場があるのに、なんで私に……」
感情がぐちゃぐちゃだった。
伊月にキスされたことは二回ある。今までは、ただの伊月の気まぐれだと片付けられていたことが、今はそんな気にはならなくて……そんな自分に戸惑っていた。
そんな気にならないどころじゃない。私は、伊月がどうして私にこういうことをするのか、その理由を欲しがっているんだ。
明確な伊月の気持ちを……知りたいと望んでしまっている。
ずっと誤魔化してきた答えが目の前に突き付けられ、もう目は逸らせないんだと思うと気持ちがズブズブと沈んでいくようだった。
だって……こんな気持ち、気付いたところでどうしようもないのだから。
受け止めて欲しいと手を伸ばしたところで、伊月には届かない。気付かれないまま、私ひとり奥深くまで沈むだけだ。
手を伸ばしたって、また……余計に苦しくなるだけだ。