極上御曹司は失恋OLを新妻に所望する
「あ……バーのマスター……ですよね?」
まだ帰省して二日目の時だ。伊月に連れて行ってもらった、レストランに併設されたバー。
そこのマスターだったことを思い出し聞くと、マスターは「お久しぶりです」と笑顔を向けた。
バーのカウンターのなかにいたときには、白いYシャツに黒ベストで、いかにもといった格好をしていた。
でも今は黒い長袖シャツにベージュのパンツと、カジュアルな服に身を包んでいる。
すぐにわからなかったのはそのせいもあった。
「そういえば、バーってこの近くでしたよね。買い出しかなにかですか?」
「はい。レモンを買いにでたんですが、おいしそうなパンが売っていたのでつい手が伸びてしまい……この有様です」
マスターは片手にレモンの入ったビニール袋を、もう片方の手ではパンが入っているらしい紙袋をふたつも抱えていた。
「迷惑でなければお手伝いしましょうか?」
男性ひとりで持てない荷物ではない。でも、声をかけずにはいられなくて聞くと、マスターはおかしそうに「大丈夫ですよ」と笑ってから、なにかを思いついたみたいに言う。
「ああ、でも、やっぱりお願いします。店まで運んでもらってもいいですか?」
「はい。もちろん」
渡された紙袋を受け取りながら答えると、マスターが私のそんな様子を見て目を細める。