極上御曹司は失恋OLを新妻に所望する
「なんだかスッキリしないお顔をしてますし、よければ店で理由を聞きますよ」
「え……そんなわかりやすく顔に出てましたか?」
昨日、伊月に対してはおかしな態度をとってしまった自覚はあるけれど、今はいたって普通にしていたつもりだ。
それなのに見破られてしまったことに驚くと、マスターが笑った。
「本当につぐみさんは、ふじえさんによく似ている。素直で可愛らしいです」
いつもだったら、そんなことはないと謙遜していたところだ。でも、相手が大人の男性だからか、誉め言葉がするっと私のなかになじむ。
マスターだって、これから開店準備があるし暇ではないのはわかっていた。けれど……優しい雰囲気に頼りたくなり、お言葉に甘えることにした。
「紅茶かコーヒーくらいしか出せませんが、いいですか?」というマスターに「ありがとうございます」と笑顔でお礼を告げた。
開店前のバーに、控えめな音量のBGMが流れる。
相変わらず味のある店内。カウンター前にある背の高い椅子に座ると、いつかの伊月とのことが頭をよぎった。
「祖母に、もっと好き勝手していいって、欲しいものがあるなら突っ走っていいって言われたんです。でも私、どうしたらいいのかわからなくて」
カウンターには、細長いグラスに入ったストレートティーが置かれていた。
ふちには、買ったばかりのレモンの輪切りがはさまっていておしゃれだ。茶葉の香りも甘さもちょうどよくて、ホッとする味だった。
黒いストローを回すと、なかの氷がカラカラと耳障りのいい音を立てた。