極上御曹司は失恋OLを新妻に所望する
正直、おばあちゃんがマスターにここまで話していることが意外だった。
私や大地の前ではあんなに明るくしているのに、マスターの前ではそんなふうに悔やんでいる姿を見せていたのか……。
でも、それも当たり前だった。おばあちゃんだって心の拠り所は必要だ。
私と大地にとっては保護者という立場だからなかなか弱音はこぼせない。だから、マスターや他のひとに話しているのかもしれない。
いつか、おばあちゃんが転んだときに世話を焼いてくれたのが伊月とマスターでよかった。
マスターにとってはどうだかわからないけれど、おばあちゃんが弱音を吐ける場所があってよかった。
「祖母はマスターにずいぶん自分のことを話しているんですね。私はあまり祖母のそういう弱音は聞いたことがないので……きっと、マスターのことを頼りにしてるんだと思います」
自分を少し情けなく感じたのが伝わったのだろう。マスターは「自分の子供に心配をかけたい親はあまりいませんから」と言ったあとで、目を細める。
「でも、つぐみさんにそう見えるのなら嬉しいですね。やっぱり僕も男なので、女性に頼られるのは張り合いがあります」
そういうものなのか……と思いながらアイスティーを飲んでいると、マスターが聞く。
「つぐみさんにはいないんですか? 弱音も愚痴も、なんでも話せる相手は」
「え……」
「自分の気持ちを抑え込んでしまうつぐみさんが、気兼ねなく話せる相手がいるなら、突っ走る先は決まっているように思えますけどね。そして、その相手は……僕も知っているひとのような気がします」
意味深な笑みを浮かべるマスターに、一瞬言葉を失ってから笑ってしまう。まるで全部を見透かされているような気分だった。
マスターは気付いている。私が欲しいと手を伸ばしたい相手が誰なのかに。