極上御曹司は失恋OLを新妻に所望する
求人雑誌を買って家に戻ると、玄関の前に伊月が座っていた。
この暑さのなか、いつから待っていたのだろう……と心配になったのだけれど、ほんの十分程度だと聞いて安心する。
もう、こんな頻度で来るのなら、伊月に合鍵を渡したほうがいいんじゃないだろうか。あとで作っておいて大地から渡してもらおうかな。
そんなことを考えながら鍵を開けると、伊月が続けて入ってくる。
戸締りしているし、これから窓を開けて回るのは面倒だから、エアコンを入れることにする。
大地だって喜ぶだろうし。おばあちゃんには内緒ってことにしよう。
大地と私の共犯だ、とひとり頷きながら居間のエアコンを起動させる。
縁側の窓からは日差しがこれでもかってほど入り込んでいるから、電気の必要はなさそうだった。
「伊月。アイスコーヒーと麦茶、どっちがいい?」
冷蔵庫の前に立って聞くと「麦茶」と返ってくるから、ふたりぶんの麦茶を入れてちゃぶ台に置いた。
……そして。
「昨日はごめんなさい。色々考えてたら余裕なくなっちゃって……八つ当たりだった」
目を見てから頭を下げると、伊月は驚いたような顔をしたあとで「いや」とハッキリとした声で言った。
「俺が悪かった。おまえの様子がおかしいのはわかってたのに、俺も余裕なくて……悪かった」
余裕……って、どうしてだろう。
私はひとりで勝手に追い詰められていたけれど、伊月はいつも通りだった。だから聞こうとしたけれど、それよりも先に伊月が聞く。