極上御曹司は失恋OLを新妻に所望する
「これ、求人雑誌だろ。転職するのか?」
ちゃぶ台の上に置いた雑誌に伊月が手を伸ばす。パラパラとページをめくっている様子を眺めながら、「どうだろ。考え中」と歯切れ悪く答える。
正直、まだ考えは決まっていなかった。
「伊月は、こんな時間から仕事抜けてきていいの?」
まだ十五時だ。定時までに二、三時間ある。
「夜には戻る。土日関係なく働いてるんだし、時間休くらい好きに使ってもいいだろ。それに、トップの俺がそのへん自由にしてないと、社員は休みがとりにくくなるし」
「ああ、わかるかも。うちの部長、悪い人じゃないんだけど仕事が趣味みたいでノー残業デーだっていうのに全然帰らないから、他の社員は帰りにくかったもん。あー……明後日にはあの部長とも顔合わせなきゃだ。二週間なんてあっという間だったなぁ」
本当に驚くくらい早く時間が過ぎた。玄関の引き戸の滑りがよくなったことにビックリしてからもう二週間も経つなんて信じられない。
でも、考えてみれば、暑さは少し落ち着いたかもしれない。夏の終わりが見えてきた感じがする。
転職だとか、まだ答えは出ていないけれど、とりあえずは戻らないと。戻ったらまず部屋の換気をして……あと、冷蔵庫を空っぽにしてきたから、なにかしら買って帰らないと。
結局、戻ったら戻ったであっという間に時間が過ぎる気がするな……と考えていると、伊月の視線に気付いた。
顔を上げると、私をじっと見つめる伊月が聞く。
「明後日、帰るのか?」
「うん。月曜から仕事だから、日曜には戻らないと」
答えると、わずかな間のあとで聞かれる。
「昨日の……連絡取り合ってた男は?」