極上御曹司は失恋OLを新妻に所望する


「え、ああ……そういえばなにも返事してない。断らなくちゃ」

すっかり忘れていたけれど、高田さんを放置したままになってしまった。
失礼なことをしちゃったな……と携帯をバッグから取り出して、返事を打とうとしていると、その手を伊月に止められた。

突然触れられたことに驚いて見ると、伊月が真面目な顔をしていて、さらに驚く。

「え、なに……」
「俺が帰るなって言ったらどうする?」

真剣な眼差しに問われ、息をのむ。
でも、麦茶に浮いた氷が音を立てて、それにハッとして笑みを作った。

「どうするって、無理だよ。仕事だもん。だいたい、帰るななんて無責任……」
「傷心中につけ込むのは卑怯だって聞いたことがあるし、俺もそう思う。でも、もう他の男を探してるならそうじゃないってことだよな」

言い終わるや否や、伊月に腕を掴まれそのまま歩かされる。

「ちょっとっ、なに……っ」

私の言葉なんて全部無視の伊月が向かったのは二階にある私の部屋で、「入るぞ」と短く言った伊月がなんのためらいもなくドアを開けた。

驚いたのは、伊月のその行動にだった。

ひとの部屋に勝手に入るなんていうデリカシーのない行動を伊月がしたのが意外だった。

伊月は傲慢に見えて、気遣いはしっかりできる男だ。
なのに私の部屋に遠慮なく入った。

大きな違和感は、伊月を責める気持ちよりも、どうして?という疑問や心配に近いものを生んでいた。

「伊月、どうしたの……わっ」

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