極上御曹司は失恋OLを新妻に所望する
みんなそうだったもの。今まで付き合ってきたひとも、光川さんも……お母さんも。最後は私がいらなくなった。別れは必ずくる。
大事なひとに捨てられるのは、もう嫌だ。……耐えられない。
自分から好きになった伊月が相手ならなおさら。
十年以上前のことなのに、未だに母親に振り払われた手の感触が残る手のひらを見つめ、唇をかみしめる。
『おまえは悪くない』
『こんなに震えてるくせに強がるな』
たった二週間一緒にいただけなのに、頭のなかは伊月とのことでこれでもかってほどいっぱいだった。
もらった言葉のひとつひとつが主張し、胸を締め付ける。
『おまえが家族を大事にしてるのは知ってる。だから、俺がまとめて守ってやる。ふじえも大地も……おまえも。全部俺が大事にする』
私だって……大事にしたい。伊月のことも、伊月とのこれからも。
でも。
「仕方ないじゃない……」
私が望むのは普通の家庭だ。普通の穏やかな幸せが続く家庭。ずっと、それだけが望みだった。
御曹司なんて立場の伊月とじゃ、それは無理だ。
『……なぁ。帰るなよ』
リスクはいらない。ただ、安定した関係がいい。つまらなくてもなんでもいいから、ツラくない日々がいい。
――それなのに。
『……なぁ。帰るなよ』
伊月の声が、頭から離れない。