極上御曹司は失恋OLを新妻に所望する
「もう、傷つきたくない……。それでも、伊月が欲しいから……私を、受け入れて欲しい。突き放さないで欲しい。ずっと、絶対にずっと、傍にいて欲し――」
手をギュッと強く握りしめながら告げている途中、掴まれた腕をぐいっと引かれる。
伊月の肩におでこをぶつけると同時に抱き締められ、その衝撃で涙が弾けた。
背中に回った腕に力がこもる。その強さに、受け入れられたことを知りまた下瞼の上に涙が溜まり始めた頃、伊月が言った。
「すげー殺し文句」
耳元で告げられた言葉には笑みが混ざっていた。
「しかもエロいし」と続けられ、「違う……っ」と勢いよく否定して離れようとしたけれど、伊月の腕がそれを許さなかった。
ギュッと私を閉じ込めるみたいに抱き締めた伊月が言う。
「俺もおまえが欲しい」
低く響きのいい声が、コトリと胸の真ん中に落ちる。
それはじわじわと体中に広がり、一拍遅れて言葉の意味を理解した。
途端、頬が熱くなり、悔しいけれど伊月の言っていた『エロい』の意味がわかってしまった。
たしかに……言い方がまずかった。伊月なんか、あんないい声で言うから余計だ。
堪らなくなっておでこをぐりぐりと伊月の肩に押し付けていると、耳元に長いため息が落ちる。
なにかと不思議に思えば「はー……緊張した」という、ぼそりとした声が聞こえてきて……態度からは想像もつかない弱音に、思わず笑ってしまったのは言うまでもない。
「おまえが伝えたいっていうのがもしもいい返事じゃなかったら、俺の部屋に監禁でもするしかないと思った」
「物騒なこと言わないでよ……」
私が周りのギャラリーを思い出すのは、この数秒後のことだった。