極上御曹司は失恋OLを新妻に所望する
「――おい」
頭を撫でられている感覚に目を開ける。すぐには頭が覚醒せず、しばらくぼんやりしたあとで私の横に立つ伊月に気付いた。
それから、どうして寝ていたのか、ここがどこなのかを追って思い出す。部屋には電気がついていて、窓の外はもう暗くなりかけていた。
「ん……ごめん。今、何時?」
「十八時前。寝るならベッド使えばよかっただろ」
スーツのジャケットを脱ぎながら言う伊月に、苦笑いを浮かべる。
「あんな高そうなベッド、勝手に使えるわけないでしょ。……あ、お弁当ありがとう。すごくおいしかった」
「ああ、あそこの弁当うまいよな。俺もたまに頼む。夕飯はどこかに食べに出るか」
「うん。任せる。私、お弁当食べて寝てただけだしお腹空いてないから、伊月が食べたいものでいいよ」
「わかった」と答えた伊月が連れて行ってくれたのは、中華料理店だった。ソファ席に案内される。
伊月が適当に注文したものをつまませてもらったけれど、どれもとてもおいしかった。
お会計は伊月がしてくれたので料金は分からない。でも、高いであろうことだけはわかった。
私は、おばあちゃんが作る料理はおいしいと思っている。それでも、こんな高級な料理を普通に食べている伊月が褒めるくらいなんだから、おばあちゃんの腕は相当なんだなと再確認した。
中華料理店を出たときに当然のように繋がれた手にひかれ、そのまま伊月のマンションに戻る。どちらにしても、ボストンバッグが部屋に置きっぱなしだから戻る必要はあったのだけれど……このまま泊まるのだろうか、とチラリと伊月を見やる。