極上御曹司は失恋OLを新妻に所望する
「大地。おかえり」
今の今までついていたため息の原因も忘れ微笑むと、大地は驚きからか数秒固まってから私の隣に座り込む。
スライディング胡坐とでも名付けたくなるくらいにシュッと勢いよく座り込んできた大地は、キラキラとした笑顔を浮かべていた。
「なんだよ、帰ってくるなら連絡しろよ。そしたら速攻で帰ってきたのに。いつまでこっちいんの?」
「二週間くらいかな」
社員に夏休みとして与えられる一週間に、たまりにたまった有給のほんの一部を足して二週間。普段ここまで長期の休みはとらないけれど、帰省すると説明すると、上司も納得してくれた。
本当ならもっと休みたかったところではあるものの戻ったあとの仕事とか考えると、それが限界だ。
光川さんとあんなことになって衝動的にとった休みなのに、しっかりと休み明けのことまで考えているのだから我ながら感心してしまう。
悲しいけれど、社会人なんてそんなものだ。
失恋くらいで仕事は忘れられないし、多少の体調不良で欠勤もできない。
「なんだよ。たったそれだけかよ」という声が聞こえ顔を上げると、残念そうにする大地がいて首を傾げた。
「あれ? シスコンだったっけ?」
ふたりきりの姉弟だし、両親はあんなだったからか、他の家と比べて姉弟間の仲はいいと思う。
なにかあったら守ってあげなきゃっていう気持ちも強いし、それは大地も同じっぽいなとなんとなく感じてはいたけれど……まさか?
疑問に思い聞いた私を見て、大地は顔を歪めた。