極上御曹司は失恋OLを新妻に所望する
「前、ふじえが言ってた。つぐみのこと、『お転婆で、でも臆病で優しい子』だって」
「私と会う前ってこと?」
「そう。その時からずっと興味があった。どんなヤツだろうって。おまえと実際に会って話すようになっても興味が尽きなかった。しっかりしてるのに危なっかしい部分があったり意外と泣き虫だったり……一緒にいて飽きない。俺の方を向かせたくなる」
いつかのバーでも言われた言葉だ。伊月もそれをわかっていたのか、「バーでおまえが泣き出したときのこと、覚えてるか?」と聞かれる。
「……うん」
「あの時、キスしてどうのって言ったけど、本当は違った。おまえが泣いてるところを見ていたくなかったし……それに、おまえの中に俺に止められない涙があるのが嫌だと思った」
そういえば、マスターが以前言っていた。
『でも、そういうことなら、孝一は念願の対面ができたってわけか。よかったなぁ』
あれは、私との対面のことだったのか……と思い出すと、ふっと笑みがこぼれた。伊月は最初から私を見てくれていたのか、と。
だからからかうみたいに「ベタ惚れだね」と笑うと、いたずらな笑顔を返され、頭をくしゃっと撫でられた。
「そうだな。ずっと惹かれっぱなしだし、自分でも戸惑うくらいに惚れてる」
眩しいくらいの笑顔にあてられ、言葉が出ない私を伊月が抱き寄せる。まだなにも着ていない伊月の肌に顔が触れ、ドキドキしていると「ここにいろよ。ずっと。俺のそばに」という声が降ってきた。
「うん。……でも、もう少ししたら今日はとりあえず帰るよ」
私の答えを聞いた伊月は、バッと私を離して距離をとると顔を合わせて眉を寄せた。
「は? 泊っていけよ」
「いや、だって歯ブラシとかメイク落としとか、泊まる準備だってしてきてないし、帰るよ」
「買いに出ればいいだろ。コンビニならすぐそこにあるし」
たしかに、コンビニは近くにあったから買いに行けば泊まれる。もともと一泊するように着替えは持ってきているし、いくつか買えば間に合うのだけれど……と考えていると伊月が続ける。