極上御曹司は失恋OLを新妻に所望する
「そうね。色んな職種を試しながらも楽しそうよね。数年単位で職場が移るなら、人間関係もそこまで面倒じゃなさそうだしねぇ。おばあちゃんもいいと思うわ」
「うん。ありがと」
おばあちゃんとそんなことを話していると、隣に座っている伊月が眉を寄せた。
「数年単位で職場移すって、おまえ、何年働くつもりだよ。こっちに戻ってくるんじゃなかったのか?」
「今の仕事を辞めたら、普通に就職先探すにしろ派遣会社に登録するにしろ、実家に戻ってくるつもりだけど、それまでは無理だよ。ここからじゃ、時間的にも交通費的にもきびしすぎる」
片道一時間半、八千円の新幹線はつらいどころの話じゃない。
月の収支が完全にマイナスだ。
「まぁ、戻ってくるのは早くても来年の二月三月くらいかな。上司に話してみてからじゃないとなんとも言えない」
辞められると困ると泣きつかれたりしたら、少し考えてしまうかもしれないし……と笑うと、そんな私に伊月は諦めたようにひとつ息をつき「まぁ、じゃあ俺もそっちに行くか」と呟くように言った。
「今まで面倒くさがって最低限しか行かなかったけど、結構仕事関係の用事はあるし。そのついでにおまえのところに行けば、月に二、三回は会えるだろ。あとは、おまえが月に一、二回帰ってくれば、そこまで会えないわけでもないか」
「……私、お盆とお正月くらいしか帰ってこないよ」
月に一度も二度も帰っていたら破産するし、時間的にもとんぼ帰りで忙しい。だけど伊月はなんでもない顔で言う。
「それは、今まではって話だろ」