極上御曹司は失恋OLを新妻に所望する
それは……恋人である伊月がこっちにいるんだから、会いにくる頻度を増やせということだろうか。
聞こうとしたのに、伊月があまりにも普通なのでそんな気がそがれてしまう。
当たり前のように言われても、困る。そりゃあ、伊月に言われるまでもなく今までよりは少し帰る頻度は増やすつもりだったし、突発的に会いたくなったりもするかもしれないけれど、ここでうなずくのはなんだか恥ずかしくて黙っていると、玄関の開く音がした。
靴のまま上がった?と思うほどあっという間にドタバタと廊下を歩く足音が聞こえてきて、大地が居間に姿を現す。
少し暑さは収まったと感じていたけれど、大地は汗だくだった。
息が切れているところを見ると、自転車を飛ばしてきたらしい。
「姉ちゃん、おかえり」
「うん。ただいま。もうあと数時間でまた戻るけどね。大地もおかえり」
今日中に戻らないと、明日からの仕事に間に合わない。
そう説明すると、大地は不満そうな顔を伊月に向けた。
「姉ちゃん、昨日って伊月さんと一緒だったんでしょ。だから伊月さん、久しぶりにミット打ちの相手してよ」
「だからってなんだよ。文脈おかしいし、おまえ、目が本気だし嫌だ」
苦笑いで言う伊月に、大地はぐっと眉間にシワを寄せた。
「別に俺は姉ちゃんが幸せならそれでいいよ。伊月さんのことも男としてそれなりに認めてる。感謝もしてる。ただ、なんでだかすげー気にくわない」
「やっぱシスコンだな、大地。言っておくけど、俺は無理やり抱いたわけじゃなくて合意の上で……」
放っておけばどこまでもあけすけに言いそうな伊月を「ちょっと!」と止める。
それを聞いた大地は、ごそごそとグローブを取り出し手にはめると、両手のこぶしを顔の前でとんとんと合わせた。