極上御曹司は失恋OLを新妻に所望する
「俺も最初見たときはやばい人かと思った。ばあちゃん騙しにきた悪いやつかもって、グローブ準備しようかと思ったし」
「……すぐ手を出すのはよくないよ」
自分でも〝どの口が言ってるんだ〟と思いながらも注意する。
大地は、ペットボトルのお茶をゴクゴクと飲んだあと「でも、伊月グループの御曹司って結構すごいよな」としみじみ言う。
「ばあちゃんから聞いたけど、伊月グループって全国区どころか海外にも輸出してるらしいじゃん。伊月さんに、〝すごいっすね〟って言ったら、〝すごいのは俺じゃねぇよ〟って言ってた。あんまり褒められたりするの嫌いなんかな」
「男の人はそういう人多いかもね。大地だって、褒めたところで〝たいしたことじゃない〟とか言うし」
大地は「まぁ、そうだけど」とバツが悪そうな顔をする。
「褒められてデレデレする男なんか気持ち悪いじゃん」
「たしかにね。でも、伊月グループの御曹司なら忙しいんじゃないのかな。今日、半日くらいうちにいたけど……仕事どうしたんだろ」
ちゃぶ台の上で、置いたばかりのお茶のペットボトルがもう汗をかいていた。
ムッとした湿気を含んだ暑さに、私の額からも汗が滲み出す。
居間にもそれぞれの部屋にもエアコンは設置されているけれど、おばあちゃんが冷風を嫌うから、基本、居間では使わないのが暗黙のルールだ。
とはいえ、最近は熱中症が怖いから三十二度を超えたらエアコンを入れるということでおばあちゃんも納得してくれている。
その約束をしてから、気温がすぐわかるようにと壁にかけた温度計は三十度を指していた。これから下がっていくだろうし、今日は居間のエアコンの出番はなさそうだ。
大地や私は、部屋に戻ったらもちろんつけるけれど。こんな暑さじゃ眠ったところで悪夢しか見られない。