極上御曹司は失恋OLを新妻に所望する
「前聞いたら、土日とか関係なく出勤してる分、半休とか時間休とか割と自由がきくんだって。むしろ時間休とってかないと休日が消化できないとか言ってた」
「ああ、なるほど」
「会社の近くに部屋借りてるらしいけど、寝に帰る感じだって言ってたし忙しいことは忙しいんだと思う。伊月さんも資格あるみたいだし、話聞いてると割と社員と同じような仕事もしてるイメージ」
「へぇ……結構、しっかりしてるんだね。御曹司なんて、汗かくイメージなかったけど」
大地は、首にかけたタオルでこめかみのあたりの髪を拭きながら口の端を上げる。
「俺も。なんか次元も違う気がしてたし、顎で人を使ったり金に物言わせたりしそうとか勝手に思ってたけど、伊月さんと知り合ってからイメージ変わった。あの人、見た目は少し怖いけど悪い人じゃないから」
大地がそう言うならそうなんだろう。
そう、当たり前のように考えるのは、きっと大地の性格のせいだ。我が弟ながら、大地はしっかりしている。同年代で比べたらおそらく、ダントツで。
そしてそれは多分、育った環境のせいで……早い話が苦労を知っているから。
高校から部活として始めたボクシングで、大地はすぐに才能を発揮した。小学校に上がった頃から、近所に住む人が趣味で開いていた空手道場に週五で通っていたから、そのせいもあるのかもしれない。
部活監督からは、きちんとしたトレーニングジムに通わせればもっと伸ばせると打診もされたらしい。
もっとも、私やおばあちゃんがそのことを知ったのは、大地がその誘いを断った何ヵ月もあとだったけれど。