極上御曹司は失恋OLを新妻に所望する
『お金のことなら心配しなくていいんだから。おじいちゃんがごっそり残してくれたんだから』っていうのがおばあちゃんの口癖だとしても、素直に甘えられない大地の気持ちはよくわかった。
きっと、高校三年生のとき、進学か就職かで私が悩んだときと同じような気持ちだったんだろう。
ペットボトルのお茶を喉を鳴らして飲む大地の横顔を眺めてから、なんとも言えない気持ちの落ち込みをそっと逃がす。
縁側からは、葉っぱや草が風に揺れる音が聞こえていた。
「大地が言うならきっとそうなんだね。私がいない間、そういう人が大地の周りにいたならよかった。大地って大人びた部分があるから、案外、伊月くらい年上の人の方が話も合いそうだし」
「んー、まぁ、合わなくはない。近所に住んでる兄ちゃんとかそんな感じで、気兼ねしないですむし。……なんかあの人、割りとすぐに誰とでも打ち解けられるタイプな気がする。たぶん、動物とかにも懐かれそう。見た目怖そうなのに」
大地が首を傾げながら言った言葉に、たしかになぁと思う。
おばあちゃんがいたにしても、私も恋愛話なんて普通にしちゃったし……しかも、ずけずけした答えしか返ってこなかったのに話していて嫌ではなかった。
伊月がデリカシーがないぶん、私も素のまま思うままを口にしていた。
伊月相手ならそうしても大丈夫だって、いつの間にか思って安心していた自分に今さら気づき驚く。
まるで気心の知れた友達だとか、腐れ縁の幼なじみだとか、そういう関係の人を相手にしているような気楽さがあった。
おばあちゃんを助けてくれたっていう事実のおかげで、悪い人じゃないんだろうって安心していたっていうのもあるけれど……それにしても、あっという間にこの家どころか私の中にも入り込んでしまっている。
……なんでだろう。波長でも合うんだろうか。