極上御曹司は失恋OLを新妻に所望する
伊月の喉がごくごくと動く様子を見て、私もひと口、コーヒーを飲む。
縁側に面した廊下は、ほぼ一面が窓になっているから、そこから明るい日差しが部屋の中まで注がれていた。
一番暑い時間帯は過ぎたにしても、熱を持った空気がじわじわと肌にまとわりつくみたいだった。
伊月も、こんな太陽の下うちに来たんじゃ暑かっただろうなぁと思い、氷水でしぼったおしぼりを渡すと「ふじえと同じことするんだな」と笑われてしまった。
私は、大地にもおばあちゃんにも似ているらしい。
「大地に聞いたよ。伊月グループの御曹司だって」
伊月は「あー……」と、少しバツが悪そうな笑みで答える。
「別にそんなたいしたもんじゃねーよ」
「でも、すごいよね。正直、全然そんな風に見えなかったから、すっごく驚いた」
「〝すごい〟とか思いながら、その態度か」
「だって、いくら御曹司だろうが社長だろうが、会社が違えば関係ないもん。私の勤務先の御曹司っていうなら、もっと恐縮もするけど」
「ははっ」と笑った伊月が「まぁ、その通りだな」と楽しそうな声色のまま言う。
屈託のない笑顔に不意をつかれ、思わず見入ってしまっていると、私を見た伊月が急に笑顔を消し眉を寄せた。