極上御曹司は失恋OLを新妻に所望する
「おまえ、いい加減に髪かわかせよ。コーヒー飲んでる場合か。ドライヤーかけてやるからこっちこい」
立ち上がった伊月が、やれやれといった態度で洗面所に向かう。
迷いのない足取りを見ると、どうやら、ドライヤーの置き場所も把握しているらしかった。
「え、いいよ。自分でやるし」
伊月は、横柄な態度ばかりとるくせに髪だってサラサラしていて清潔感がある。色々と行き届いている感じだ。
だからなのか、髪に触られるのが嫌だとかそんなことはないけれど……付き合ってもいない男にそんなことまでさせられない。
そもそもおばあちゃんと美容師さん以外に髪を乾かしてもらったことがないし、そんなことされても困る。
だから、慌てて立ち上がった私に、伊月が言う。
「いいよ。どうせ暇だし」
「大丈夫だってば。暇ならコーヒー飲んでればいいでしょ。だいたい、御曹司にそんなことさせられない……」
「一分前にそんなの関係ないって言ったの誰だよ」
くっと喉の奥で笑われ、たしかに言ったは言ったけど……と口を突き出す。
返す言葉が見つからないでいるうちに洗面所についてしまい、伊月は鏡の前に椅子を置くと私にそこに座るように指示する。
そして、自分は鏡の裏に収納してあるドライヤーを取り出した。
この家のことをよく知っているんだろうなと感心する。ドライヤーの位置を知っているなんて相当だ。
……まぁ、いいか。なんでだかやる気みたいだし。
遠慮し続けるのも面倒くさくなり諦めて椅子に座ると、伊月は私の髪を軽くタオルでわしわしと拭いたあとドライヤーのスイッチを入れた。