極上御曹司は失恋OLを新妻に所望する


「でも〝もし医者になって子どもの傷を治したとして。それと一緒に、自分の傷も癒せるかどうかはわからないし悪化する可能性だってあるから、そうならなくてよかったのかもしれない〟とも言ってた」

私の髪を乾かしながら話す伊月を、鏡越しに見つめた。
まさか大地がそんな風に考えているなんて思わなかったし、伊月にそれを話しているとも思わなかった、と苦笑いをもらした。

「母親が出ていったとき、大地はまだ一歳くらいだったから、私がしっかりしなきゃって思ってここまできたのに……いつの間にそんな立派なこと言うようになってたんだろうね」

歳の差が五歳あるくらいじゃ、母親代わりなんてことはできない。
それでも、大地が少しでも寂しくないようにって、物心ついてからはそればかりだったし、そういう気持ちと大地の存在に私自身も支えられてきた。

伸び伸びと育ってくれたらいいなって、変な我慢を覚えて欲しくないなって、そう思いながら過ごしてきたのに、当の大地は、私のことをそんな風に考えてくれていたのか、と思うとなんだか自分自身が情けなくなってしまう。

心配していたつもりだったのに、逆に心配されていたらしい。

「頼れる存在でいられたらって考えてるのに、結局心配ばかりかけちゃってるしね。今回の帰省の理由も、大地に知られたらきっと怒られちゃうだろうなぁ」

そう笑うと、ドライヤーのスイッチを切った伊月が言う。


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