極上御曹司は失恋OLを新妻に所望する


仮にも彼女だった女性がこんなに泣いているっていうのに、「土井さん、とりあえずここは会社だし話なら後でにしよう」と場を収めることを優先する姿は、社会人としては正しいのかもしれないけれど、ひどく薄情に見えた。

土井さんも私と同じように考えたんだろう。

「ひどい……っ! 最低!」と、顔いっぱいに怒りを広げた土井さんは光川さんの頬を再度バシッと平手打ちしてから叫んだ。

「光川さんのこれからの人生がどん底続きになるように毎晩呪ってやるから! 毎晩よ! 人のこと馬鹿にして……! 光川さんが不幸になるまで絶対に許さないっ」

目に涙をいっぱいにためた土井さんが、光川さんに指を突き立てる。その捨て台詞はなかなか恐ろしい内容で、周りの男性社員の喉がゴクリと鳴ったのが聞こえたようだった。

シン、としたオフィス内。

青ざめた顔で困惑した笑みを浮かべる光川さんを、どこか遠い気持ちで眺めた。
そして、背中を向けてすでに歩き出している土井さんを、羨ましい気持ちで見つめた。


三咲つぐみ。二十一歳。
誕生日を二ヶ月後に控えた八月半ば。恋人だと思っていた男性が三股をかけていたことが発覚し、失恋した。


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