極上御曹司は失恋OLを新妻に所望する
「ただいまー」
引き戸の玄関を開けながら、大きな声で言う。
半年前にはすべりが悪かった引き戸が、思いのほかスッとなめらかに開くものだから、少し驚きながらも、後ろ手に閉める。
いつの間に直したんだろう。
築二十五年以上が経つこの家は、言葉通りの日本家屋だ。木造二階建てで、一般的な住宅よりひと回り大きな家の間取りは4LDK。
立派な屋門や門塀、それに昔ながらの縁側や、春にはしだれ桜が咲き誇る日本庭園はすべて、亡きおじいちゃんが残してくれたものだ。
私、三咲つぐみと、弟の大地はこの家でおばあちゃんに育ててもらった。……というか、弟の大地はまだ高校二年生だから、現在進行形で育ててもらっている。
私が幼い頃姿を消したという父の記憶はほとんどなく、母も私が小学生に上がる前に突然家を出て行ってしまったから、私と大地を育ててくれたのはおばあちゃん。
おばあちゃんは、十八で私の母を産み、その母も二十歳で私を産んだため、今年六十二歳という若さで、とても元気だ。
私はあと二ヶ月で二十二歳になるけれど、おばあちゃんはもう私の歳で四歳になる子どもがいたのか……と考えると、感心せずにはいられない。
時代もあるにしても、この歳で子育てなんて今の私にはとてもじゃないけれど無理だ。
二重のぱっちりとした目と主張しない小さな鼻や唇は母親似らしいけれど、誰かに聞かれればおばあちゃんに似たと答えている。