極上御曹司は失恋OLを新妻に所望する


両手で頬杖をつき、目を伏せる。
正しいことしかしたくないっていうのも、たぶん、母親とのことが原因なんだろう。

〝いい子〟にしていないと、もっと母親の機嫌を損ねてしまうかもしれない。〝いい子〟じゃなければ存在意義がなくなってしまう。

母親には嫌なイメージしか持っていないのに、今でもこんな風に私の根底に刻まれているトラウマが恨めしい。

〝いい子でいなくちゃ〟
〝踏み込みすぎない〟
〝手を伸ばしちゃだめ〟

トラウマから派生した自分自身への命令は、私の中から一瞬たりとも消えてくれたことはない。本当に雁字搦めだ。

「どうにかして二年前に戻れないかなぁ。戻れたら、絶対に付き合ったりしないし……好きにだってならなかったのに」

明るく笑うはずだったのに、少しも笑えない自分に気付き……ぐっと歯を食いしばった。
別れてから、初めて頬を伝った涙に、「なんで、今頃……」と呟き、うつむく。

やけに熱を持った涙が、木でできたカウンターテーブルを滲ませた。

どういうつもりで話しかけてきたの?
どういうつもりで私に触れてたの……?

私と一緒にいる時も、触れ合っている時も、あの人の一番は私じゃなかった。

最初から一度だって愛されてなかった。
どの言葉にも、どの体温にも、愛なんてなかった。

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