極上御曹司は失恋OLを新妻に所望する
「おばあちゃん、玄関の引き戸、すべりがよくなった気がするんだけどいつ直したの……」
両肩に提げていた大きなバッグふたつを、居間の畳の上にどさっと置くと、体を屈めたせいで、胸まで伸ばした髪が顔を覆った。
生まれつき栗色のストレートの髪が、汗をかいたせいで首に張り付くから、面倒がらずに結んでくればよかったと後悔する。
それを耳にかけながら体を起こし顔を上げて……目を見張った。
だって、そこにいたのはおばあちゃんじゃなくて、知らない男だったから。
二十畳ある居間に置いてある、木製の上品なちゃぶ台。その前に座っていたのは、知らないワイシャツ姿の男だった。
ワイシャツ男は、うしろについた両手に体重をかけた体勢で私を見ていた。
驚いてポカンとしている私と、動じる様子も見せずにただ私を見るワイシャツ男の間に、しばらく沈黙の時間が流れる。
最初に浮かんだのは〝不法侵入〟だとか〝泥棒〟って言葉だったけれど、本当にそうだとしたらこんなに堂々としているはずがない。
だとしたら、私が覚えていないだけで親戚だとか知り合いなのかもしれない……と考えてみてから首をゆるく振る。いくら記憶を掘り起こしてみたところで見覚えはない。
ワイシャツ男は、強面ではあるものの、ちょっと目を見張るくらいに美形だし、こんな人が知り合いにいたら忘れるなんてまず考えにくい。
そう推理しながら、こちらをじっと見てくる男を眺めた。