極上御曹司は失恋OLを新妻に所望する
「だって、この時間に来るって言ったら伊月さんしかいないじゃん。なぁ?」
話を振られたおばあちゃんが「ねぇ」とにっこりとうなずく。
「孝一くんは、夕飯はだいたいうちで食べていくのよ。だから、大地と孝一くんが来るまでは鍵は開けておいてるんだけど……あら? 言ってなかったっけ?」
「聞いてない……!」
昨日の今日で顔を合わせるなんて……と思わず膝立ちになった私に、おばあちゃんと大地の不思議そうな視線が集まったとき。
「なに、騒いでんだよ」
うしろから伊月の声が聞こえてきた。
そして、固まって何も言えずにいる私の隣にドカッと胡坐をかくと「すげーな、今日」と驚いた様子を見せる。
「誰かの誕生日か?」と、平気な顔で私に聞いてくる伊月こそ〝すげーな〟だと思う。
それとも……あまり遊んでるタイプには見えないけど、伊月にとってはキスくらいなんでもないことなんだろうか。挨拶同然なんだろうか。
だとしたら、いつまでも私だけが気にしているのも癪だなと気持ちを切り替えて、「別に」とだけ答えた。
「姉ちゃんが作りすぎたんだって」
「孝一くん、ご飯、これくらい?」
当たり前のように用意されている伊月のお茶碗にご飯をよそりながら、おばあちゃんが聞く。