極上御曹司は失恋OLを新妻に所望する
「これ。食うだろ」
私の隣に腰掛けた伊月が、プリンとプラスチックスプーンを渡してくる。
視線を移すと、居間のちゃぶ台の上には空のカップが置いてあるから、伊月はもう食べ終わったんだろう。
おばあちゃんと大地はクイズ番組を見ながら楽しそうに話していた。
「ありがと。これ、どこの?」
「駅中にあるケーキ屋。先月オープンしたばっかだとか言ってたな」
「あー、なんか割引券みたいなのがポストに入ってたかも。へー、そこのなんだ」
卵の殻をイメージしているカップのフタを開け、「いただきます」と言ってからスプーンですくう。
クリーム色をしたプリンが口の中でとろける。
「ん! おいしいね。私、プリンってこのくらいしっかりしてるほうが好き。今のってみんなスプーンですくった時点で崩れるくらい柔らかいから物足りなくって」
「あー、言ってる意味はわかる」と言った伊月が、手をうしろにつき私を見る。
「俺もこのくらいの方が好きかも」
目が合ったまま笑顔を向けられ……瞬間的に見とれてしまった。
整った顔立ちにもだけど、薄いワイシャツに浮かぶガッシリとした体つきだとか、胸元のボタンをふたつも外しているせいで覗く鎖骨のラインだとか。
夜空の下、伊月が急に魅力的に見えてしまい……ハッとする。
傷心だからってどうかしてる……とバッと顔を背けると、「どうかしたか?」と伊月が覗きこむようにして見てくるからその胸を押した。
「ちょっと、近いんだけど」
「だっておまえが急におかしくなるからだろ」
「だからっ、近いってば……っ」
ぐいぐい押すのに伊月が私の抵抗なんてなんでもないみたいにしているのが腹立たしい。
至近距離からじっと見つめられて困っていると、伊月はなにかに気付いたみたいに「ああ」と呟いた。