極上御曹司は失恋OLを新妻に所望する


「もしかしておまえ、照れてる? 昨日俺が……」
「そんなわけないでしょっ。別に、キスくらいで――」

私が食い気味に否定したとき。

「キス?! やだもう、あんたたちいつの間にそんな仲になって……!」

いつの間に移動したのか、すぐうしろにいたおばあちゃんが興奮気味に声を上げる。

「おばあちゃん、違う……」
「キス……?! てめぇ、伊月っ、姉ちゃんになに無理やりキスしてんだよ!」

私が否定し終わる前に口を挟んだのは、大地だ。こっちもいつの間にか聞いていたらしい。
敬称も敬語も忘れて怒っている大地に「だから違う……」と言った声は、伊月の声にかきけされた。

「なんで無理やりって決めつけてかかってくるんだよ。おまえの姉ちゃんからだったかもしれな……あー、うそうそ。悪かったって。とりあえずグローブはずせ」

置きっぱなしになっていたスポーツバッグの中からグローブを取り出した大地に、伊月が苦笑いを浮かべる。

「グローブをはずすかは姉ちゃんの答え聞いてからにする」
「だから、無理やりじゃねーって。別にこいつ、嫌がってなかったし」

最後、こちらを向いた伊月に「なぁ?」と聞かれて答えに困る。
勝手にされたことではあるけど、大地にボコボコにしてもらうようなことでもない。

だから、大地の睨むような眼差しを感じながらも「……まぁ」と短く答えると、今度はおばあちゃんが聞く。

「でも、キスってどうしたの?」
「あー、別に。なんか流れで俺が勝手にしただけ。こいつが元彼の話してボロボロ泣いてるとこ見たらこっち向かせたくなって」

「あらぁ。孝一くんは男だねぇ」

あけすけに話す伊月に「ちょっと! おばあちゃんに変なこと言わないでっ」と声を張り上げると、おばあちゃんは「いいじゃないの、キスくらい」と呆れたようなため息を落とした。


< 65 / 190 >

この作品をシェア

pagetop