極上御曹司は失恋OLを新妻に所望する
「でも、さすがに家族にするような話でもないし……」
「まったくつぐみは固いんだから。今時キスなんて誰とでもするものなんでしょう? 今やってるドラマの主人公なんて、出てくる男みんなとキスばっかりして……あれは結局誰とくっつくのかねぇ」
頬に手をあて首を傾げるおばあちゃんに、伊月が答える。
「あー、それ多分、こないだネット記事でとりあげられてたドラマだ。内容が倫理的にどうのこうのって。あの主人公の股の緩さおかしいだろ」
「時代が時代だからねぇ。でも、孝一くんはああいう女に騙されちゃだめよ。きちんとした女と結婚しなさい」
なんか……もう、話についていけない。
家族間でキスの話とか、〝時代が時代〟だから当たり前なんだろうか……。
伊月と私がキスしたっていうのに、それは私にとってはやっぱり結構な大事件だっていうのに、伊月やおばあちゃんにとってはドラマと同じレベルの話題でしかないらしい。
その差に呆然として、もうどうでもいいや……と、忘れかけていたプリンを口に入れたとき、伊月が言う。
「俺もあんな女やだ。せめて、別れた恋人想ってボロボロ泣くくらいの情は持っててくれる女じゃねーとなぁ」
最後こちらをチラッと見た伊月に心臓が〝ドキッ〟だか〝ギクッ〟だか音を立てる。
私がなんの反応も返せずにいると、伊月はニッと口の端を吊り上げた。
からかわれたんだと思い、きつく睨んでから顔を背け、残りのプリンを食べる。
口の中でとけるプリンがやたら甘く感じたのは気のせいだろうか。