極上御曹司は失恋OLを新妻に所望する


翌日。おばあちゃんはいつもと変わらなかった。
こうなってくると、キスひとつをいつまでも気にしている私がおかしいんじゃないかと思えてくる。

もしかしたら、本当になんでもないことだったのかもしれないな……とぼんやり考えていると「十時のお茶にしましょう」と、おばあちゃんに声をかけられた。

「この栗ようかんも孝一くんが持ってきてくれたのよ。気を遣わなくていいっていつも言ってるのに……本当に優しい子よねぇ。しかも頭もいいし」

ちゃぶ台の上には、二センチ幅に切られた栗ようかんとあたたかい緑茶が並んでいる。

「伊月って頭いいの?」

口が悪いし態度もあんなだからあまりそういうイメージはなかっただけに驚く。
ようかんを食べながら聞くと、おばあちゃんは「いいわよ」と答えた。

「一ヵ月くらい前にね、うちの南側にあるアパートが建て直しするとかしないとかで、大家さんが話しにきたのよ」
「へぇ……。南側のって、二階建ての?」

「そうそう。でね、設計図を見せてもらったら四階建てにするって書いてあってね、それを見た孝一くんが言い返してくれたの。日照権がどうのって」

ようかんを食べながら話すおばあちゃんに「そうなんだ」と呟くように返す。

日照権についてはよくわからないけれど、たしかに、今までの倍の高さにするつもりならうちの許可も必要になるのかもしれない。日当たりは悪くなってしまうわけだし。

「大家さんって、あのおばさん?」

何度もすれ違ったことがあるけれど、見るからに人のよさそうなおばさんだった。
周りに迷惑をかけてまで四階建てになんてしなそうなのに……と思い聞くと、首を振られる。

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