極上御曹司は失恋OLを新妻に所望する


トップから自然な感じに流している黒髪はやや長めだけど、襟足がワイシャツの襟にかかっていないから社会人としてはギリギリセーフだろうか。

前髪の下には形のいい眉と奥二重の目。スッと通った鼻筋に、薄い唇。肌は少し浅黒く、体付きはガッシリとしていた。年は上に見える。二十後半だろうか。

観察するようにジロジロ見ていると、ワイシャツ男が体を起こしローテーブルに片肘をつくから、思わず身構える。

でも、戦ったところで勝てる気はしないので、頭の中で逃げ道の確認をする。私が部屋の手前、ワイシャツ男が部屋の奥という立ち位置だし、最悪なんとか逃走はできそうだ。

外まで出れば人目もあるしどうにでもなる。

「おまえ、誰? まさか不法侵入者ってわけじゃねーだろうな」

低い声に問われ、眉を寄せながら口を開く。

「こっちの台詞なんだけど。そっちこそ誰?」
「自分の名前も言えないとか、怪しさ満載だな」

鼻で笑われ、ぐっと悔しさを堪えながらひとつ息をつく。
とりあえず、通報するための携帯がポケットにあることを確認しておく。

「三咲つぐみ。ここに住んでる三咲ふじえの孫」

嫌々自己紹介し〝で、そっちは?〟と聞こうとしたところで、それより先に男が「ああ、なんだ。ふじえの孫か」と驚いた様子で言う。

当たり前のように〝ふじえ〟なんて呼んだけれど、うちのおばあちゃんは六十二歳だ。
こんな、三十前の男に呼び捨てにされるとは何事だ……と信じられない思いで「……〝ふじえ〟?」とこぼすと、男はにっと口の端を上げた。

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