極上御曹司は失恋OLを新妻に所望する
私はひとり暮らしをしているし、おばあちゃんとほぼふたり暮らし状態の大地がいい子なのはとても助かるのだけど……家族に対してだったらもう少しわがままを言ってもいい気もする。
……でも、言いたいことはそれなりに言ってるか。
『キス……?! てめぇ、伊月っ、姉ちゃんになに無理やりキスしてんだよ!』
伊月相手に突っかかっていたことを思い出し、ふっと微笑む。
大地ももう高二だし、彼女とかいないのかな。
大地がどんな子を選ぶのか興味あるなぁと考えながら、窓の外の景色を眺め……今日もまた届いた光川さんからのメッセージを思い出しため息を落とした。
光川さんと出逢ったのは、二年半前。私が今の部署に配属になったのがきっかけだった。私とほとんど入れ違いに出て行ったのが光川さんだから、同じ部署だったのはほんの一週間だけだ。
彼から仕事を引き継いだ一週間は今でもよく覚えている。
それまでしていた業務とは違う仕事内容に戸惑っていた私に一から丁寧に教えてくれたのも光川さんだし、仕事で行き詰まったとき〝相談に乗るよ〟と食事を誘ってくれたのもそうだった。
光川さんは違うフロアにある部署に異動してしまったから、引継ぎの最終日〝わからないことがあったら気軽に連絡して〟と連絡先を交換した。
そして、光川さんが異動して数日後、〝なにも問題はない?〟と私の仕事を気遣ってくれる電話があって……彼との個人的な付き合いが開始したのはそこからだ。
さりげなく気にかけてくれるところや、小さなことでも見つけて褒めてくれるところに惹かれていった。きちんとした優しいひとだと思った。
自分だって異動先の部署で課長という役職にもついて大変だったはずなのに、そんな顔ひとつ見せずにただ私の気持ちを汲んでくれる、穏やかで優しい人だと。
……でも、そんな、光川さんが私に見せていた顔全部が嘘だったのかもしれない。
私と光川さんの二年間は、いったいなんだったのだろう。