極上御曹司は失恋OLを新妻に所望する
「名前で呼ぶのは止めてください」
光川さんは、私の冷たい言葉を受けてわずかに眉を寄せた。
それから気を取り直したみたいに笑顔を浮かべる。
「立派な日本家屋で驚いたよ。つぐみ……三咲さんはあまり実家の話はしなかったから。ご両親はご在宅かな? だとしたら家族団らんの邪魔をして申し訳ない」
私は家族の話を好んでしない。
だから、光川さんにも詳しくは説明していなかった。ただ、実家を出てひとり暮らししているという程度しか教えていない。
「両親はいません」
「……え?」
「それより、なんの用でしょうか」
〝両親がいない〟という言葉を、今はいないだけなのか、それとも元々存在しないということなのか、どちらの意味で捉えるべきか戸惑っている様子の光川さんに聞く。
もうただの同僚でしかない。
だから、光川さんがどんなにショックを受けたような顔をしたって私には関係ないんだと自分に言い聞かせた。
たとえ、まだ割り切れない想いがあったとしても情に流されるべきじゃない。しっかりと言う事は言わないとダメだ。
そうしないと、いつまで経っても変われない。
会社を早退してきたのか、それとも今日は休みだったのか。ワイシャツにスラックスという格好の光川さんはわずかに言いづらそうにしたあと、苦笑いを浮かべて私を見た。
優しそうなタレ目に、胸の奥がギュッと縮こまる。