極上御曹司は失恋OLを新妻に所望する


「ふじえなら今、隣んちに回覧板渡しに行ってる。って言っても、家出たの二十分前だけどな」
「ああ……おばあちゃん、話好きだから。……で、あなたは誰で、なんでここで平然とくつろいでるかを説明して欲しいんだけど」

勝手に入って居座っているわけではなさそうだけど、一応、聞く。
得体の知れない男が家にいるのは気持ちが悪い。

ワイシャツ男は「俺は、伊月孝一」と名乗ってから、また両手を後ろにつく体勢に戻った。

「三ヵ月くらい前に、道端でふじえが若い男にぶつかられて転んだのを見て、その男とっつかまえて謝らせたんだよ。それがきっかけで仲良くなった」

「え、そんな話聞いてない……」

毎週のように電話はしているけれど、おばあちゃんはそんな話してなかったのに……と思っていると、伊月と名乗った男が説明する。

「ぶつかられて転んだとか年寄りくさくて嫌だからって内緒にしてたからな。心配しなくても、軽くしりもちついただけで問題ない。骨にも異常なかったし、それから三か月、転んだのが原因で出てきた症状もなさそうだし。ちなみに、玄関の引き戸直したのは俺。スプレー差しただけだけど」

「……そうなんだ。ありがとう」

たしかにおばあちゃんは、自分自身のことをまだまだ若いと思っている節があるから、そういう、足腰が弱ってきただとか系のお年寄りっぽい話を嫌がる。

話を聞いている限り、どうやら、この伊月とうちのおばあちゃんが知り合いだってことは事実らしい。


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