極上御曹司は失恋OLを新妻に所望する
「……叩くことはなかったかな」
ひとりごとのつもりだったのに、うしろから「大地に殴らせてもよかったぐらいだろ」と返ってくるからふっと笑う。
正直、こんなことになってショックはショックだ。でも、最後に幻滅できたからこそ、気持ちは少し晴れた気もしていた。
自分の気持ちを呑み込まずにしっかりと声に出せた。その事実にスッキリしていた。
誰もいなくなった道を眺めていると、うしろから「悪かったな。話に割り込んで」と謝られる。
振り向くと、申し訳なさそうに眉を寄せた伊月が私を見ていた。
薄暗くなった空には星がポツポツと浮かんでいた。
「ううん。むしろ、助かった」
「おまえ、結構泣き虫だよな」
そういえば、これで泣き顔を見られるのは二回目だ。
一度目はバーだったっけ……と思い出していると、伸びてきた手にくしゃくしゃと頭を撫でられるから、ハッとしてそれを引きはがす。
バーのときはこんな流れからキスされたのを思い出したから。
「そういえば、夕飯つくる途中だった……っ」
「おまえ、なに慌ててんの?」
伊月が不思議そうに片眉を上げて顔を覗きこんでくるから、目が泳いでしまう。
こういう、距離感のなさというか、急に至近距離まで近づいてくるのはやめてほしい。