極上御曹司は失恋OLを新妻に所望する
「うん。ありがとね、大地」
ふふっと笑うと、大地は苦虫をかみつぶしたような顔をしたあと、口を尖らせる。
「だから、ありがとうとかそういう話じゃなくて……あー、もう、その男、俺が代わりに殴ってやりたい……そいつの住所知ってんの?」
「絶対に知らない」
「くそ……どうにか社会的に抹殺してやりたい」
物騒なことを言いながら立ち上がった大地が「風呂入ってくる」とフラフラと歩いていく。
その後ろ姿を見送っていると、さっきまで食器洗いをしていた伊月が縁側に近づいてきた。
おばあちゃんは……と視線で追うと、テレビの前に陣取っている。
そういえば今日はおばあちゃんが好きな脳トレ番組がある曜日だ。
「話、筒抜け」
さっきまで大地が座っていた場所に、今度は伊月が腰を下ろす。
ニッと笑いながら言われ、まぁ、あれだけ大声で話していたら聞こえるだろうなと思い「そう」とだけ返した。
「そんなに騙されてたのか? 遊び人にモラハラDV男だっけ?」
「騙されてたわけじゃないよ。結果的になんか……嘘つかれてた部分があったってだけで。それに、DV男については咄嗟に手が出ちゃったってだけだし」
「普通、女相手に咄嗟に手は出ない」
「同じこと言った大地が、翌日制裁に行ってたよ。〝姉ちゃんに二度と近づくんじゃねぇっ〟って……その頃、大地はまだ中学に上がったばっかりだったのに相手の人完全に怯えてた」
その頃にはもう大地は空手を習い始めて五年以上がたっていたし、無理もないのかもしれないけれど。
ゆっくりと視線を上げ、夜空を見つめながら口を開く。