極上御曹司は失恋OLを新妻に所望する
「あ、ほら、だっていいものじゃないし。どんな親でも自分の親だし……そんなひとが自分を置いて出ていく姿なんて見たくないのが普通でしょ?」
明るい声で口早に言う。
「っていうか、遊び人にモラハラDVで、今回は三股とか……こうなってくると私の付き合い方が悪いのかもしれないって思えてくるよね。普通に付き合ってるつもりだったんだけどなぁ……なにが間違ってたんだろう」
〝なにが〟とかじゃなく、全部が間違っていたのかもしれない。私の感じ方や付き合い方全部が。
答えがでた気がして、目を伏せる。
結局、私が悪かったのかもしれない。だから、母親だって私を捨てて――。
そんな考えが頭に浮かんだとき。
「嘘ついて騙すほうが悪いに決まってんだろ」
伊月が言う。
同時に、膝の上に置いていた手を握られ驚いたのだけど……隣を見上げてもっと驚いた。
伊月があまりに真面目な眼差しで私を見ていたから。
「おまえは悪くない」
おばあちゃんが見ているテレビの音も、遠くを走る電車の音も、なにも聞こえなくなる。
ただ、伊月の声だけが耳から入り込み胸に響き、私が出した間違えの答えを砕く。
「それに、おまえは冷めてるわけじゃないと思うけど」と続けた伊月が、庭に視線を移す。
「ただ、わがまま言って困らせたくないってそれが一番にくるだけだろ。母親がおまえを邪魔みたいに扱ったせいで、それがトラウマみたいになってるだけだ」
ハッキリと言い切られ言葉を失うと、伊月はそんな私を見て申し訳なさそうな笑みを浮かべた。