幸せの花束をもらった日に、あなたに愛してるを〜箱庭の少女と舞台俳優〜
「きちんと演技ができるといいな……」

舞台できちんと演じることができなければ、俳優として失格だ。冷酷な医師になろうとシリウスはパンと自分の頬を叩く。叩いた頰は自分が思っているより熱かった。

「エヴァ……」

シリウスがそう呟いた刹那、頭に衝撃が走る。そして、視界がグニャリと歪んだ。



エヴァは、劇団の控え室でひたすら衣装を縫っていた。

「これでよし……」

衣装のほつれを直し、エヴァはフウッと息を吐く。針と糸を置き、手を休める。一時間ほど休むことなく裁縫をしていた。

「シリウスさん、何を伝えようとしているのかしら……」

シリウスのことを考え、高鳴る胸をエヴァは押さえる。頰が熱くなっていた。

カレンと出会い、感情を初めて知った。それからシリウスたちと出会って、複雑な感情とも多く触れ合った。しかし、人の気持ちを全てわかるわけではない。

「シリウスさん……私……」

レストランやシリウスのことを考えていたエヴァだったが、ドアの前に気配を感じて振り返る。すぐに戦える体制を取った。ドアの向こうにある気配は、劇団員のものではない。
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