幸せの花束をもらった日に、あなたに愛してるを〜箱庭の少女と舞台俳優〜
「ただ、少しだけ思い出したことがあります」

「えっ!?本当?」

エヴァが過去を思い出すなど、今までなかった。ケイリーは驚いて「どんな記憶?」と訊ねる。

「私のこの髪飾りをくれた人は、私にこの名前を与えてくれた人でした。……とても優しくて、絵を描くのが上手でした。でも、名前を思い出せないのです」

切なげにエヴァは答える。ケイリーはその声に胸を締め付けられた。記憶を思い出せないことにエヴァがずっと悩んでいると知った瞬間だったからだ。

「その人は、きっと素敵な人なんだね」

「はい。とても、素敵な人です」

それ以降、二人は話すことなく歩き続けた。畑の間の一本道を通り、山の中を奥へと歩いていく。夜の山は不気味でケイリーは小さな物音でも怯えてしまうか、エヴァは怖がる様子もなく進んでいく。

そして、二人の目の前に荒れ果てた小屋が現れた。ケイリーが「ここが秘密基地だよ」と言って中に入る。

秘密基地の中は、何年も入っていなかったせいか廃墟のように荒れていた。そのテーブルの上に箱が置いていることにケイリーはすぐに気付く。
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