18歳で父になった。




「まさか、断るなんて言わないよね?
私より柚子葉を取るの?最低だね。
そんな最低なのが父親になれる訳ないじゃん」






柚子の言葉が俺の胸をグサグサと突き刺す。



父親になれない。






「別に柚子葉とは一緒に居なくていいし私。
どうしても触れ合わせたくないなら、通い旦那したら?」



「でも、今年は結構試験とかあって忙しいし、バイトもサークルもある。
だからそんなことしたら柚子葉との時間がもっと減る…」



「で?
私を捨てた後悔や謝罪はない、と?」






柚子はグッと顔を近づけてそう問うてくる。


俺はやっぱり無責任なのか…。
やっぱり柚子と一緒にいる方がいいのか?




そんなことを考えると、柚子はまた近くにあったらカッターを取り出した。







「ま、別に結婚してくれないなら死ぬだけだけど。
そしたら永遠に後悔して私のこと忘れないでしょ?ざまぁないよ」



「柚子!」



「本当に紫苑くんは死神みたいだね」






柚子はそういうと、俺の制止の声も虚しく腕を深くきりつけてしまった。



瞬間、柚子の腕から溢れる血液。



柚子はそれでも懲りずに、次は自らの首元にカッターを当てる。



さすがにまずい。



そこは致命的だ。






「一生のトラウマになればいい。
私だけトラウマなのは嫌だしね」



「柚子!待てって!」






柚子がなんの躊躇いもなく、首に当てたカッターを引こうとしたところで、俺は決意を固める他なかった。







「わかった、結婚するから。
だから死なないでくれ」






俺が頑張ればいい事だ。



医者になりたいのだから、知り合いの命すら守れなくてどうする。




だったら俺が我慢して頑張れば済む話なのだから。






俺の言葉を聞くと、柚子はカッターを引く手を止めてニコッと笑った。






「今の、聞いたからね」



「うん」



「じゃあ、証拠として私を抱いて。
んで、明日早速婚姻届持ってきてね」






柚子は血の滴る手で俺を抱きしめて、満足そうに笑った。



きっと、これでよかったんだ。


そう、俺は自分に言い聞かせた。






< 107 / 187 >

この作品をシェア

pagetop