18歳で父になった。
「まさか、断るなんて言わないよね?
私より柚子葉を取るの?最低だね。
そんな最低なのが父親になれる訳ないじゃん」
柚子の言葉が俺の胸をグサグサと突き刺す。
父親になれない。
「別に柚子葉とは一緒に居なくていいし私。
どうしても触れ合わせたくないなら、通い旦那したら?」
「でも、今年は結構試験とかあって忙しいし、バイトもサークルもある。
だからそんなことしたら柚子葉との時間がもっと減る…」
「で?
私を捨てた後悔や謝罪はない、と?」
柚子はグッと顔を近づけてそう問うてくる。
俺はやっぱり無責任なのか…。
やっぱり柚子と一緒にいる方がいいのか?
そんなことを考えると、柚子はまた近くにあったらカッターを取り出した。
「ま、別に結婚してくれないなら死ぬだけだけど。
そしたら永遠に後悔して私のこと忘れないでしょ?ざまぁないよ」
「柚子!」
「本当に紫苑くんは死神みたいだね」
柚子はそういうと、俺の制止の声も虚しく腕を深くきりつけてしまった。
瞬間、柚子の腕から溢れる血液。
柚子はそれでも懲りずに、次は自らの首元にカッターを当てる。
さすがにまずい。
そこは致命的だ。
「一生のトラウマになればいい。
私だけトラウマなのは嫌だしね」
「柚子!待てって!」
柚子がなんの躊躇いもなく、首に当てたカッターを引こうとしたところで、俺は決意を固める他なかった。
「わかった、結婚するから。
だから死なないでくれ」
俺が頑張ればいい事だ。
医者になりたいのだから、知り合いの命すら守れなくてどうする。
だったら俺が我慢して頑張れば済む話なのだから。
俺の言葉を聞くと、柚子はカッターを引く手を止めてニコッと笑った。
「今の、聞いたからね」
「うん」
「じゃあ、証拠として私を抱いて。
んで、明日早速婚姻届持ってきてね」
柚子は血の滴る手で俺を抱きしめて、満足そうに笑った。
きっと、これでよかったんだ。
そう、俺は自分に言い聞かせた。