18歳で父になった。
当然のように、綾瀬の家の前まで付き添ってくると
到着した途端涙目になる綾瀬。
「寂しい…」
「なにも今生の別れじゃあるまいし…
明日も会えるぞ?」
「違うの」
ん?何が違うんだ?と綾瀬の顔を覗き込むと、涙を目にいっぱい貯めて俺を見つめてきた。
「本当に本当にずっと好きだったの。
高校1年の入学式で一目惚れしたの。
それから一方的にずっと見てて、バスケのキャプテンをするほどの運動神経と
医大なんて余裕で受かるだろうって言われる程の頭脳
それでも努力を怠らなくて、みんなと仲良くて、優しい紫苑くん」
なんかすごい褒めてくれるな。
さすがにそこまで言われると照れるが、やっぱり悪い気はしない。
「ずっと付き合いたい、あわよくば結婚したいって思ってたから今が本当に夢みたいなの」
綾瀬はそう言ってそっと抱きついてきた。
悪い気はしないが、どうしようかと困惑はするものだ。
肩を震わせて泣いている綾瀬を放っておくことも出来ず、慰めるように抱き締め返して背中をポンポンと撫でた。
「泣くな。な?
俺はずっと友達だし、また遊べるし、来年は同じクラスになるかもしれないだろ?」
「うん…でも…」
泣かれるのは得意じゃないから困ったものだが
俺は昔から誰かの助けになることが好きな方だから、やっぱりこれも悪い気はしなかった。
「ほら、可愛い顔が台無しだぞ?笑え笑え!」
「うん…」
綾瀬の頬を挟んで笑ってみせると
釣られたようにやっと笑ってくれる綾瀬を守ってやりたい。
少しずつ芽生えるいつもと違う感情に、まだ俺は気付かないふりをした。
「明日からクラスに遊びに行くね紫苑くん」
「おう!」
「あと、綾瀬じゃなくて、柚子って呼んでよ」
「わかったよ」
俺の返事に満足そうに笑った柚子。
コロコロ変わる表情がみてて飽きないな。
「じゃあ、また明日ね紫苑くん!」
「じゃあな、柚子」
名前を呼んであげると、顔を赤くして恥ずかしそうにくらい家の中に入って行ってしまった。
そう言えば、家の人はいないのか?
家の中真っ暗だなぁ。
なんて考えながら、自分の帰路に着いたのだった。