My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 5
「でも過去に何度かこの辺りの海にのさばっていた海賊に襲われてね、それでこの町を守るためにオルタードが中心になって自分たちで海賊団を立ち上げたってわけ。だから、この町の人たちはみんなオルタードに感謝してる」
この町を守るために海賊団を……。
ちらりとセリーンの横顔を見上げる。彼女も足を止め海の方を見つめていた。
「でもね、私はもうこの町に海賊団なんていらないと思ってるの」
「え、そうなの?」
驚く。今の話を聞いただけだと海賊団に対してすごく好意的に思えたのに。
すると彼女は私を見てきっぱりと言いきった。
「だって、やっぱり人のものを奪うって良くないでしょ?」
「う、うん」
お兄さんから勝手に借りたものを身に付けている私は笑顔が引きつるのを感じながらも頷いた。
ちなみにあの『セイレーンの歌』という本も借りたままだ。グリスノートは気づいているのかいないのか、どちらにしてもグレイスのことで頭がいっぱいでそれどころではなさそうだ。
出来るならあの楽譜のことも訊きたいけれど、グレイスの一件が落ち着いたらそんなチャンスがあるだろうか。