My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 5
「ほら、もう立て」
そんな溜息混じりの声と共に視界の端に大きな手が映った。私はありがとうとお礼を言ってラグのその手を取りなんとか立ち上がる。
「こっちだ。早くしろ!」
グリスノートは背を向け、小屋の裏手側へと回った。小屋に入るわけではないらしい。――と、
「あとは下りだけだから、そんなに辛くないと思うわ」
リディがなんだか面白がるように私たちに言った。
「下り?」
私が首を傾げると、ふふと笑ってリディも慣れた足取りで小屋の裏の方へと向かった。
セリーンがその後を追い、私もラグと共に足元に気を付けながら続く。――そして。
「わぁっ!」
眼下に広がる光景に、知らず感嘆の声が漏れていた。
小屋の裏手――イディルの町の反対側は岩山にぐるりと囲まれた入り江になっていた。
底には白い砂浜が広がっていて静かにブルーの波が打ち寄せている。
そしてそこに隠れるようにして、あの大きな海賊船が泊まっていたのだった。