My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 5
「ほんっと兄貴はグレイスのことになるとトンチキなんだから!」
「誰がトンチキだ!」
「トンチキでしょうよ! 逆の立場だったら大騒ぎする癖に!」
「グレイスが俺から離れるわけねぇだろうが!」
「わからないじゃないの! 現に兄貴の前では歌わなくなっちゃったんでしょ!?」
「それを言うなぁーー!」
また始まってしまった兄妹喧嘩の最中、ブゥがふわりと止まり木から飛び立つのが見えた。
「ブゥ?」
「あ?」
「え?」
ブゥはふわふわゆっくりとこちらに飛んでくると、グリスノートとリディの頭上を通過し、私の傍らを抜け、そしてラグの耳の横に留まった。よく見ればその瞳はもうほとんど閉じかけていて。
ラグが無言で結んだ髪を少し持ち上げるとブゥはいつものようにその結び目に逆さにぶら下がり、翼で自身を包んでそのまま眠ってしまったようだった。
「寝床の面倒も見てもらったらどうだ?」
ラグの後ろでそれを見ていたセリーンが溜息交じりにそう呟くのが聞こえた。
グレイスは止まり木の上で不思議そうに小首をかしげている。――と。
「……こっの、グレイスの純真を弄びやがって~」
グリスノートが腰の剣に手を伸ばすのを見て焦る。