My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 5
「兄貴……」
リディの寂し気な声。
「あ~くそ、胸糞悪ぃな! グレイス、行くぞ」
声を掛けられたグレイスは少し頭を傾げた後でぴょんとグリスノートの肩に飛び移った。
そうして皆が見つめる中、彼は船長室を出て行ってしまった。
「すみません、態度の悪い野郎で」
オルタードさんがセリーンに頭を下げる。
「いや、彼はお前の息子、ではないよな?」
「まさか。私の息子は14年前のあの日に妻と共に……」
「そうだったか。……すまない」
セリーンが謝罪しオルタードさんが頭を振るのを見て、胸が詰まる思いがした。
14年前に家族と故郷を奪われたふたり。平和な日本で過ごしていた私には想像もつかないけれど、それでもふたりはこうして時を経て再会できたのだ。
「でも、私たちにとってオルタードは親みたいなものよ!」
リディの言葉にオルタードさんの片方の目が優しく細められた。それは愛娘を見る父親の眼差しに似ていた。
「ありがとうよ、リディ」
「兄貴だってそう思っているはずよ」
だがその言葉でオルタードさんの笑みが消えてしまった。
「どうだかな」
「何か、事情がありそうだな」